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■2005年7月
岡本誠司君(11歳)のレッスン風景  (取材・文:清水瞬)

誠司君のご紹介から

 幼稚園に入る時に、お母さんから「ピアノ習ってみない?」と薦められた誠司君。実はピアノ
はお母さんの夢でした。でもその時、誠司君は「それよりこういうのがいい」とヴァイオリンを
弾く真似をして見せたそうです。お母さんは「えっ」と思いましたが、それならばと、3歳9ヵ月から
スズキ・メソードでヴァイオリンのお稽古をスタート。ヴァイオリンが大好きな坊やが誕生しました。

 そんな折「ちょっとでもいい音のする楽器を」と弦楽器Duoに分数ヴァイオリンを探しに来たのが
縁で、きみ子先生のレッスンを受けることに。たった1回で誠司君がきみ子先生のレッスンを
とても気に入ってしまって、遠くからレッスンに通うようになりました。その時、6歳でしたから今年で
5年目。学校がある時は忙しいので、1日1時間から1時間半、お休みの日は3〜4時間練習してい
るそうです。

●まずは音階から

 まずはCarl Fleschのスケールシステムの教本を使って 、スケールの練習が始まりました。
ハイポジションの嵐のようなスケール。音程も確かだし、スムーズに聴こえますが、きみ子先生
の要求は厳しく、なかなかOKは出ません。

音階はね、一つずつの音を板の上に並べていくように弾くのよ。飛び出したり、引っ
込んだりしないように平らに。家で練習する時もそう思ってしないと、ここで1回目にできるわけが
ないでしょう?」

「音符を手で書くと揃わないでしょ? 玉が大きかったり、小さかったり、ぺちゃんこだったり。そう
じゃなくてね、印刷された音符みたいに弾くのよ。スケールは同じ丸をつなげたようにね」

 誠司君のスケール練習は、繰り返すうちに、だんだんこなれて、音もどんどん揃ってきます。

「そうそう、次のレッスンでは、この音から始めてね。忘れないで」

 きみ子先生からやっとOKが出ました。そのあと、3度、6度、8度、10度の和音でのスケールが
続き、そのつど、「スラーで一弓で」「アップから始めて」と注文がつきます。

 分数ヴァイオリンで(3/4)、それもこんなハイポジションなのに、とても音が豊か。 人を“はっ”
とさせる音
です。誠司君自身の耳が好む音を、自然に選んで出しているのでしょう。
それがもって生まれたものなのかもしれません。
●そして、シシリアーノとリゴードン

 今年「第59回全日本学生音楽コンクール」に出場します。出場資格のある4年生になった昨
年「ちょっとやってみようか」という軽い気持ちでエントリーしたら、入選は逃したものの、本選
まで進みました。それで今年は、もう少し上をと思って、再度エントリーしました。

 しかし、きみ子先生は今、悩んでいます。コンクールは特別なもので、たとえばこの
クライスラー作曲の「シシリアーノとリゴードン」(今年の課題曲)は、もともとは舞曲ですから、
曲本来の姿で軽ろやかに弾くと、実はコンクールを通りません。何人もの奏者の中で、審査員
に強く印象づけるインパクト
がまず必要なのです。

 そこでいつも葛藤します。ウィーン風の音楽のために、ウィーンの空気を吸いに行ってしまう
ようなきみ子先生は、コンクール風「シシリアーノとリゴードン」を好みません。でも、コンクール
は入選しないといけないし、と葛藤は続きます。


 前半の「シシリアーノ」が始まりました。誠司君は、体を使って、踊りの曲にひょいひょいとのっ
ていきます。

「この音が一番ぴかっているのよ。この音くらいしかないの。もっとぴかって」

「ここはね、踊りで回っているところで、それからふわっと停まるところ。だから一瞬停まって」

 きみ子先生がピアノ伴奏譜をヴァイオリンで弾いて、曲の緩急、歌い方をリードして教えて
います。口で言われるより何倍もよくわかります。

 きみ子先生は、体を使って弾いている誠司君に、あえて「体を動かさないで」弾いてみるよう言
いました。まったく動かずに弾く→膝を曲げるだけ→トリルをとる→元どおりに、というように練習
するよう提案もしました。それから、動く時と、動かない時、両方録音して演奏を聴き比べてみれ
ば、とも。

「コンクールの時は、動いて弾くほうがいいのよ。そのほうが自然だしね。でも、動かない練習
も大事
なの」

  細かいフィンガリングを変更しても、
「わかったわね。慣れるまで付点をつけて、あの練習するのよ」
といえば、もうそれだけで誠司君は理解してしまいます。基本的な練習方法は、師弟間では了
解事項なのですね。だから過剰な説明はまったく要りません。

●最後は、メンデルスゾーンの 
  ヴァイオリンコンチェルト第3楽章

 発表会で弾くこの曲を最後まで見てもらうのは、今日が初めて。発表会まで2週間。レッスンは,
多分あと1回。技術的には問題ないだろうけれど、まだ弾き慣れていない、こなれていない感じは
します。あとは夏休みになって時間ができたらしっかりさらうというお約束に。

 きみ子先生は、いろいろな言い方で、誠司君に伝えますが、子どもを相手にしているような
感じが全然ありません。
誠司君も11歳ながら、お付き合いが長いせいか、何を言われても
萎縮せず、きみ子先生がちょっと言えばほとんどのことは理解しているようです。

「E線換えたほうがいいかもしれない」と言われれば、「E線はホ長調で大事だからだね」と答えま
す。立派!

 忙しいきみ子先生のこと、月に2回レッスンできればいいほうで、先生のスケジュールの
関係で、 ちょっと間があくこともあります。途端にきみ子先生は「もうホントにがっかりするんです
よ。さぼってるし、練習の方向は違っているし(笑)」と手厳しい。誠司君、苦笑い!



★きみ子先生の思い

 ヴァイオリンはもちろんのこと、誠司君は野球少年で、サッカー少年で、ピアノも弾き、勉強も大
好き、という多才な少年。何でも人より上手にこなせるのは、集中力なのかもしれません。それを
もって生まれた子は、きっと何をしても頭角を表わすのでしょう。きみ子先生も息子さんがいるので
なおさら、この年の男の子を一つのもので縛ることができません。

  きみ子先生は「ヴァイオリンをずっと弾いてほしいけれど、ほかのものも大切なのがよくわかる
から」と言います。

お母さんには10年先を見ていきましょう、と言っているの。10年後に希望すればどうにでも
なるようにしておくのが、今、一番大事なことだと思うから。それを理解してもらえるのでありがたい」と。

 10年後、誠司くんは一体何を求めているでしょう。お楽しみに。


★お母さんの一言

 はじめは、きみ子先生が何をおっしゃっているのか親子でわからないことも多かった
のですが、やっと最近「ああ、このことを言っていたのか」とわかるようになりました。私自
身が、きみ子先生のファンですし、誠司もとても慕って通っています。


■岡本誠司君

この年の第59回全日本学生音楽コンクール東京大会で奨励賞受賞。翌年、第60回で
全国大会第1位。やっと音楽の道に進む気持ちにはなってきたようです。

 
 
 
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